レコード会社関連。

ここ数日観察していたが、驚くべき速さでレコード会社の諸問題が動いている。
とりあえず自分の考えをまとめておくことにする。
タイトルにリンクを5つほど貼っておいたので、興味のある人はどうぞ。


ただ、この問題は単なる著作権問題に留まらないし、その中には日本のマスコミにとってのタブーも含まれている。レコード会社と、それに取り込まれた文化庁および文部科学省*1だけの問題ではない。


まず、貿易とのカラミがあるだろう。「輸入権創設」ということは、明らかに保護貿易の範疇なので、独禁法にも反しているし、GATT協定にも反している。WTOに訴えられたら即敗北。世界中から攻撃喰らって大恥かくことは必定。
しかも、今アジア諸国との間にFTA(自由貿易協定)構想があるというのに、その裏ででこんな法改正を強行すれば、間違いなく構想は頓挫するであろう。


そして、再販制度の問題がある。平たく言うと、価格カルテルである。これのおかげで、国内盤CDはめちゃめちゃ高い。*2一般に、国内盤と輸入盤とを比較すると、

  1. 価格・・・輸入盤>>>>国内盤
  2. 音質・・・輸入盤>国内盤(CCCDであれば輸入盤>>>>>>>>>>>>>国内盤)
  3. 規格・・・輸入盤>>>>>>>>国内盤*3


といったところか。加えて、CCCDという悪魔的な機能を誇る国内盤を買いたいと思う人間がどこにいるのだろうか。
また、邦楽と洋楽との比較をするなら、

  1. 質・・・洋楽>>邦楽*4
  2. ジャンルの多様さ・・・洋楽>>>>>>>>>>>>>邦楽
  3. 価格・・・洋楽>>邦楽


といえるのではないのだろうか。すなわち、国内盤を買うインセンティブなどどこにもないのだ。ゆえに、レコード会社はボーナストラックをつけたり、ライナーの解説を評論家に書かせたり、歌詞の対訳をつけたりする*5。そうでもしないと、国内盤など買ってもらえないからだ。*6加えて、ミュージシャンに来日してもらうためには国内盤を買わざるを得ない、という状況にあるためレコード会社が足元を見ている。バブルでCDが売れまくった時代にさえ、連中は値下げなど全く考えずに殿様商売。


また、CDバブルがはじけて、おいそれとミリオンが取れるような時代じゃなくなった。*7加えて、違法コピーやダウンロードによる売り上げの低下もあり、音楽業界は冷え込んだ。
そこで、レコード会社は後者のみを敵視し、再販制度の見直しなど業界としての当然の努力を放棄し*8、CCCDというしょうもない規格を作り、消費者に多大なるダメージを与えた*9。さらに、アナログコピーすら不可能にする新技術などというものまで出てきた。如何にダウン厨排除とはいえ、このようなことをしたら、音楽を聴きたがる人間はいなくなるだろう。


そして「輸入権創設」ということになると、対象は今のところ「逆輸入CD」であるが、その対象を決める権利をレコード会社に渡してしまう、ということになる。一般の洋楽の輸入盤の輸入停止や、DVDなどにも被害が及ぶ可能性がある。そうなると、クソ高い、しかもCCCDしか日本では聴けなくなってしまう、ということが大いにありうるのである。高いだけならまだしも、欠陥品しか聴けない状態になる、というのはどう考えても条理に合わない。もちろん、AMAZONなどでの個人輸入も不可能になる公算が高い(し、AMAZONのほうが自主規制することも考えられる)。


ここで、「再販制度」について少々。そもそも、価格カルテル独禁法で禁止されているが、「文化振興」の観点から、書籍、雑誌、新聞、レコードなどが適用除外とされているのである。繰り返すが、「文化振興」である。独禁法著作権法などの「知的財産法」は、情報や発明などの無体財産を、有体物と同じ「財産」として扱うことで、「文化振興」を図るという目的を持った法である。そこらへんのことを指摘したのが、中山信弘東京大学法学政治学研究科教授をはじめとした法曹界の人々である。「著作権法について論じるなら独禁法に通暁していることが重要だし、そもそも、著作権ばかりを主張して消費者の利益を無視していると、消費者にソッポを向かれてしまい、文化振興、産業発展にならないよ」といったのに対して、レコード会社およびちょうちん記事しかかけない程度の低い科学ジャーナリストは、「著作権法には独禁法の遵守義務はない」「時代錯誤」「みんな独禁法が嫌い」「特許で儲ける*10」などと無知をさらけ出している。まあ、無知なだけならいいのだが、それがデカイ声で会議を動かし、法曹界の意見を黙殺しているとなると問題だ。


以下は余談。再販制度は新聞にも適用されると述べたが、そのため、新聞の既得権益となっている。それが、冒頭で述べた「タブー」の意味である。つまり、公正取引委員会(以下、公取)が「再販廃止」を言い出すと、マスコミの力を使って徹底的に言論弾圧するのである。そのマスコミにおいて最強なのは、紛れもなくナベツネこと渡辺恒雄。このため、ナベツネ公取とめちゃめちゃ仲が悪く、公取を不倶戴天の敵と見ていることは言うまでもない。
何でこんな話が出てくるかというと、プロ野球機構の新コミッショナーである根来氏は、公取出身者である。しかも、公取が再販廃止をぶち上げた際にナベツネに潰されたときの委員長だったはず。そう考えると、プロ野球機構も風通しがよくなって少しはマシになるんじゃないかという期待。また、政府の総合規制改革会議でも同じように再販廃止を取り上げたが、この会議の座長は宮内義彦オリックス会長。ナベツネと宮内の仲が悪いのは、こうしたことが根っこにあるのである。


最後に。The Trembling of a Leafさんからだいぶ議論の中身を使わせていただきました。
この問題は、僕が単に洋楽好きで、輸入盤が入ってこないと困るという問題意識があったから取り上げましたが、興味のある方は、非常に詳しく書かれているこちらをご覧になってください。知的財産権の問題が非常に深いことを思い知らされます。

*1:もっとも、自分の志望する省庁でもあるので、悪口は差し控えるけどw

*2:邦楽で3000円、洋楽でも2500〜2600円する。輸入盤は高くても2000円といったところか

*3:国内盤だとCCCDだけど輸入盤ならCD、というケースが、レディオヘッドやアイアンメイデンなどに見られた

*4:どちらも、質が高いものは高く、低いものは低いのは間違いないが、質の低い洋楽は、そもそも日本に入ってくるかどうかすら怪しいので、購入するのは一部のマニア以外にはいないだろう

*5:日本には碌な評論家がいないので、解説は概ねクソだし、対訳は誤訳だったりすることが往々にしてよくある。

*6:ただし、価格差を埋めるほどのものか、という疑問は残るだろう。

*7:アーティストの質が落ちたという説も根強い。コメントは控えるが。

*8:さらに、「法改正したら値下げの努力してやる」ということを言い出した。法改正したら値下げする必要性はない。逆も然り。大体、「〜したら―してやる」という論法は道義的にも最低だろう

*9:プレーヤーブッ壊れるようなもん作るなヴォケが。

*10:今時バブリーなこと考えてんじゃねえよ。どっちが時代錯誤だバーカ。